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@ゆりかごから墓場まで@

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ジョッシュ君の日記

●月×日

 今日も何もする事がない。あぴにょんさんはいつもどおり、机に向かって何かをしている。それが一体何になるのか。どうなるのか。傍目には無駄なことのように見えるから、結局のところ何もしていないのとそう変わらないんだ。でも、手を動かしているだけマシというのがあぴにょんさんの言い分で、たしかにずっと寝ているよりは健康的だと思う。ぼくは特に言い返すこともない。

 「ジョッシュ君!」

って突然、嬉々として呼びかけられ何かと思えば、

「わたし、やっと見つけたんだ!」

って一体何を見つけたのやら。
 言いたいことをまっすぐ言わないのは、会話を長引かせたいあぴにょんさんの常套手段でもあり、実際のところは頭の中が繋がっているぼくたちの定義を曖昧にして説明を省こうとする手抜きでもある。会話をしたい一方ですごく面倒くさいのだそうだ。――ぼくもそう思う。ぼくたちの会話は壮大な独り言なんだから。

 「いったい何を見つけたんですか?」
 「ああ、ジョッシュ君。前も言っていたじゃないか。あれのこと!」
 「あれ? あれってなんでしたっけ」
 「ほら、あれ。あれだってば、あれ!」
 「あれ? あれー……えー……あれ……」
 「あれだよー」
 「あれ?」
 「そうだよ、あれ」
 「えー……と」
 「あれあれあれ?」
 「あーーっ!!!」

 あぴにょんさんはぼくが思い出す素振りをするといつも茶化してくる。

 「まったく、憶えてないの? ジョッシュ君ったら、あれのことだよ」
 「そんな風に言うなら、直接言ってくださいってば!」

 語気を荒げて言い返すと、口を尖らせながら不満そうにする。でも、気に触ってそうしてるわけではなくて、単なる演技だ。ぼくは確かにあぴにょんさんの行動に腹を立てるのだけれど、あぴにょんさんはぼくの行動がそうなるように仕掛けている。ぼくが思ったとおりの反応を返すように演技している。
 あぴにょんさんはニヤリと笑った。

 「イーゼグリム」

 ぼくは小首をかしげながら「イーゼグリム」と繰り返す。口にしてみてもそれと“あれ”とが結びつかなくて、あぴにょんさんが果たして以前にも話題にした事があったのか疑わしくなる。

 「ジョッシュ君。忘れちゃったんだね」

 ぼくは忘れたとは思わない。むしろ、話をしたこと自体があぴにょんさんの嘘だったように思う。あるいは、確かにその話をしたことがあったけれども、なんらかの理由でぼくの記憶が改ざんされたのかもしれない。そもそも、ぼくらには過去も未来もない。アイデアを2人で共有したその瞬間に今日が発生する。発生と共に事件が起こる。それが“いつ”起こったことなのかを特定するための時間軸は存在しない。だって、ぼくらの出来事についてはっきりと順序立てようなんてことを誰もしたがらないのだから。仕方がない。
 あぴにょんさんは少し寂しげにぼくを見つめながら、相変わらず口元は余裕の笑みを浮かべて「イーゼグリム」について説明しはじめた。

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