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@ゆりかごから墓場まで@

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ジョッシュ君の日記3

●月△日

 ぼくはずっと昔に首吊り自殺をする夢を見たことがある。
 小学生だったぼくが遠足で公園に行くと丘の上に目立った木があったので、みんなでその近くへ寄って行った。ぼくたちは何層にも木を囲んだ、外側のほうにぼくはいた。近づいて木に何かをみとめた途端にみんなはいっせいに騒ぎだしたのだけど、ぼくには何も見えなかった。何があったのかみんなの言葉を聴き取ろうとしたけれど一人一人が何を言っているのかもわからない。ただ、その慌ただしい雰囲気は只事で無い感じだった。
 ぼくは、あの遠足のことをそれぐらい漠然としか覚えていない。でも、日々をすごすなかでときどき、あの丘と木が現れることがある。白昼夢、なんてかっこいい言葉があるけれど……ぼくにそんなかっこいい言葉は似合わないだろう。ぼくは昼寝をしている場合ではないし、すごくすごくものすごく疲れて、ただひたすら忙しくて、誰に言うのもためらわれるような情けない姿がぼくの現実だ。ぜんぜんかっこよくない。
 ぼくはかっこよくないから、目の前に木を見つけると、どうしたらいいのかわからくなる。そんなぼくのことが惨めで情けなくて、たまらなくなって、ぼくはゆっくりとあの時のことを思い出すようにしている。あの大木の枝に……ぶら下がっていた……あれのことを思いだす。あのときのあれのように、ロープを括りつけて……そう。同じように……箱を踏み台にして蹴っ飛ばす……。あのときと同じように……
 そう。ぼくはいつもそうすることにしている。そうした後で我に返ると、いったい、この一連の記憶は幻の中の出来事なのか? 実際の出来事なのか……? はっきり区別をつけることはできない。でも、やっぱり小学生の頃に遠足で見た大木には"ぼくが”ぶら下がっていたような気がするんだ。だってあの遠足の列の中にいるぼくの声だけが記憶の中で響いてこないのだから。
 それで、ぼくはいつも思う。ぼくもあの時、悲鳴をあげていればよかったんじゃないかって。みんなと同じように、ぼくはみんなの列に……それで、だから。いまさらだけれど、ぼくは悲鳴をあげ――

 「……ジョッシュ君、王様の耳は?」

 ふいに、あぴにょんさんが話しかけてきた。

 「さあ、そこに穴があるよ。穴は近所にある穴のうち、どれかとどれかとどれかとどれか……まあ、とにかくたくさんの穴と繋がっている。穴を通って向こう側に声が響く仕組みになっているんだ。だから、ジョッシュ君がそこに向かって答えを叫んだら、穴が同じように叫ぶ」

 示された穴に促され、ぼくは途端に不安になった。

 「ぼくが答えたら、王様の耳のことがみんなにバレてしまうんですよ?」

 あぴにょんさんは首を振る。

 「大丈夫だよ。人なんて腐るほどいるからね。その人ゴミの中のそこいらにある穴がいっせいにジョッシュ君の声を叫んだとしても、誰もジョッシュ君を特定することなんて出来ないんだ。どの穴から叫んだかなんてわかるわけない。だから何も心配することはないよ!」

 とても親切そうな笑みを浮かべている。めったにないことなので、ぼくは困ってしまった。

 「ぼくを特定されなかったとしても、王様の耳のことがみんなにバレるのはよくな……」
 「いいんだよ! 王様の耳のことなんて、とうの昔に周知の事実で、暗黙の了解のことだ。常識だよ、常識!! 問題はそれを言う人がいないって事なんだけれど。だから、ジョッシュ君が今から答えてくれれば穴がいっせいに叫ぶ! 誰だかわからない人ごみの中で! その穴から出た言葉は、もうジョッシュ君の言葉じゃないんだ。いっせいに、雑踏の中から、ジョッシュ君と同じ答えを叫ぶ。……それは、たくさんいるジョッシュ君の声なんだ!」

 たくさんいる……暗黙の了解……

 「そんなことで、ぼくは雲隠れできるのでしょうか?」
 「大丈夫。穴はたくさん空いているよ」

 あぴにょんさんのふてぶてしい笑顔に、ぼくはなんだか勇気が湧いてきた。

 「さあ、ジョッシュ君! 王様の耳は?」

 ぼくは口を穴にはめて、答えを叫んだ。

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